青春

青春らしい青春を送れなかった、なんてことを君は言うけどそれはきっと気がついてないだけでそういうのは往々にして後になって美しく見えるものだ。友達が自分の部屋にやってきて「この部屋臭っ!」と言われて気がつく己の不潔さ。飛行機で雲の中に入れば周りが何も見えないし機体は揺れて怖いのに地上の人は「綿菓子みたいで美味しそうだなー」なんて貧困な想像で楽しんでたりする。青春というのは離れてみた時に初めて美しく見えるものなんだろう。

青春18きっぷって何が青春なんだろ。やっぱ貧乏旅的なことだろうか。時間はあるけど金はない青年のためのきっぷ。それ以上の何か含蓄に富んだものなのではないかと考えたりするけどそんなバカ考察に時間を使うのも滑稽である。在りし日のアボガド6のリプ欄をネタにしてゲラゲラと下品に笑っていた高校時代を思い出す。

疲れ切ってどこか遠く行きたい、と8/31になって思い立って金券ショップで青春18きっぷ(3回分)を買った。京都から鈍行で行ける最も遠いところは大体熊本とか仙台らしい。なんとなく仙台に行くことにした。最近発狂して誰にも会わず外にも出ずバンドもバイトの連絡も完全に無視しきって布団で寝ているだけのワイ将、おそらく体を痛めつけて生きている実感を得たかったのだろう。今までも実家から東京まで鈍行で帰ったり、下宿からひらパーまで歩いて何もせず帰ったり、夜中の真っ暗な山道を琵琶湖まで歩いて朝日をみて帰ったり、体力を(適度に)消耗するイベントを度々行っていたけどそれらが生の実感につながっていたのだろう。つらい仕事をしたり筋トレをしたり走ったりリストカットをしたりときっと同じ。わざわざ金を払ってしんどいことをするなんておかしな話だ。大人になって狂ってしまったのか。

出町柳の始発電車に乗るために4時15分に目覚ましをかけた。前の日の夜は「行ってやるぞ」とワクワクしていたのだが目を覚ますと「ああ、本当にこの日が来てしまった…本当に行くのか…?」とひどく憂鬱になって、もう一回布団を掘って潜り込んでしまおうかともおもったが既にホテルを予約してしまっていたので渋々身支度をした。最後の荷造りを終えて出発した4時50分、空も街も真っ赤に光っていていいもん見たななんて思ってしまった。キモ、早く行け。

5時21分出町柳発の電車にあまり人はいなかったが三条、祇園四条になるとヤンキー、ホス狂、小汚いおじさんらが夜、川、汗、酒、性等々のニオイを纏ってたくさん乗ってきた。フライデーナイトを楽しんできた人達だろう。近くに座ってこないでよかった。東福寺からJRに乗って正式に18きっぷの旅が始まる。京都から米原に向かう電車には途中からだんだんとの中学生が乗ってきて同じ駅で全部降りていった。ある子のカバンのサイドポケットにはリレーのバトンが入っていたから多分陸上の大会があるんだろうな。前に座ってるおじさんのスマホがチラッと見えてブレイキングダウンが流れていた。俺はあれがあんまり好きじゃない、ってのは単に野蛮な感じが苦手なのだがおじさんとかかなり年上の人、所謂「いい大人」が見てるとなんだかすごく残念な気持ちになる。本当にどうでもいい話だが。なんて思ってると米原に着く。6時56分。

米原から特別快速に乗ったのだがなかなか混んでいた。ほとんど満席。ボックスシートの横並びの2席をジジイが荷物を置いて脚を広げて占領していた。新幹線でもなんでもジジイは席を占領しがちだ。嫌な気持ちになって現実を見ないために目を瞑ったら眠ってしまった。(⁉︎)が浮かび目が覚めると隣におじさんが座っていた。おじさんのオイニーがなかなかキツかったのだ。服を変えていない系の匂い。もう豊橋まで来ていた。席占領ジジイはまだ占領していたし、なんなら汚ねえ素足を先に乗っけて寝そべっていた。

しばらくすると浜名湖が見えて列車もその上を走り始めた。9時過ぎ、まどろみ、一番心地よい時間。近くのダブルジジイ以外は最高と思いながらもきっと俺も将来そう思われるんだろうなとか考えてた。9時49分浜松到着。

50分発の静岡行きにすぐに乗った。やっぱり混んでいて30分くらいは立っていた。本を読んだりPSYCHO-PASSを見てたらすぐに静岡に着いた。11時02分。静岡は結構都会だった多分京都より都会だと思う。次の電車まで50分空いたが逆に言えば50分しか空いてないのだ。帯に短し襷になんたらというやつだ。とりあえずマックを食べた。照り焼きのセットで670円、高い。

11時53分、熱海行きが発車。色んな人が乗ってる。しばらく京都で学生と爺さん婆さんばっか見てたからなんだかそんなことにさえ驚いてしまう。つなぎを着たおじさん、登山バックを持った夫婦、全身真っ黒謎の美女、めちゃくちゃ脚を広げてるジジイ(おじいちゃん)、乳首浮きすぎ野球部、シャバい大学生ぽい集団。久しぶりにロングシートの電車に乗ったけど見ず知らずの人と接触することのストレスたるや。高校時代の通学のストレスを思い出した。東京の朝は混んでるだけではなく一定数のヤバいジジイがいるのだ。少し体重をかけただけでバチギレするジジイ。目があっただけで怒鳴ってくるジジイ。みんなストレスでおかしくなってしまっているんだ。それに比べれば昼の静岡はマシだろうと言い聞かせ文章を読んだり。そもそも俺は肩幅が広いので関東のロングシートに座ると絶対に隣の人に体が触れてしまうのだ。関東が嫌いな所以。そんなことを思いながらベースボールベアーなんか聴いてるとベースボールベアーみたいな女の子が途中で乗ってきたではないか。レモンスカッシュ溢れる感覚♫るんるん♫真夏の条件、それは一つだけ君がいるということなのである。最初彼女は僕(今の僕はベースボールベアーの世界にいるので当然一人称も僕に変わる)の向かいに座った。2駅ほど走って喪服を着た老夫婦が乗ってくると彼女は席を立って譲った。そう、その時、レモンが弾けた感覚。彼女は僕に背を向けて立っている。髪留めを解いて一旦櫛でとかす。そしてまた髪を結ぶ。唇ディテクティブ♫そう流していたら僕の目の前にベイスターズのユニホームを着た青年が立ちはだかる。どけ!邪魔だ!このまま横浜まで行くつもりか?物語は途切れ僕は俺に変わりそうになるが、あの子はなぜだか左右に揺れてポニーテールをベイスターズ野郎の陰から覗かせてくるのだ。何を聴いているんだろう。ベースボールベアーかな。ミセスだったらやだな。電車は川を渡り目の前には雲を携えた富士が見える。その大きさ、形の美しさは、使い古された表現にはなってしまうのだが、荘厳で畏怖さえかんじる。レモンスカッシュな君はこんな綺麗な街に住んでいるわけだ。どんどん歳をとって嫌なことが増えて嫌な大人になってしまってもここに戻ってきてこんな日々があったなって思い出してね。そんな君がいるはずって勝手に思えるだけで僕は救われるからね…。ひとしきりの勝手なベボベ物語の執筆にも飽きた。そもそも彼女みたいな可愛い子は多分同じクラスにいたら俺と喋ってくれないしなんならちょっと俺を馬鹿にしてるし嫌ってる。なんだよこの野郎、所詮顔がいいだけだろ。帰れ帰れ。と収拾がつかなくなってるところでちょうど女の子は降りてくれたので助かった。そして俺はまた隣のビール飲み爪噛み脚広げ貧乏ゆすりニキ地獄へと引きずり戻されるのだった。なんとか耐えきって熱海、13時07分。

このまま熱海でゆっくりしたいがまたしても乗り継ぎがギリギリ。13時10分、東京へ向けて乗り込む。熱海以東の車両は馴染みがある。まだ静岡なのにもう帰ってきた感じ。熱海からしばらくはずっと海沿いを走っていて、根府川なんてのは海がすごく綺麗に見える駅だった。海を眺めてものが多すぎる、もう少し捨てられたらと思ったり、思わなかったり。たくさんの乗客がバカみたいに海を眺めていた。何を思っているんだろう。東京に近づくにつれて人が増えて思ったのは、やっぱり東京の人ってある程度「洗練されてる」ということ。服装とか見た目に気を使う人が米原〜熱海間より明らかに多い。そして当たり前だけだけどみんな標準語でなんか安心する。14時47分、東京着。

15時05分、東京から常磐線に乗る。一瞬松戸に住んでいた時は必ず常磐線を使っていた。懐かしい気持ちになる。このまま実家に帰りたいがホテルをとってしまったので…。昼の常磐線とか武蔵野線とか東西線(地上)の空気が好きだ。空いていてゆっくりと進む車内には西陽が差し込んでいる。流れる景色も緑の多い郊外、自分が生まれ育った場所。揺れに眠気を誘われる。この空間が日本で一番siestaを感じる。siestaってなんだ?完全に座る位置を間違えて背中を西陽がジリジリと焼いている。暑い。16時08分土浦着。

20分ほど次の電車を待たなければいけない。何故かたくさん外国人が降りてくる。何かあるのか?ホームのベンチに座ってぼーっとしてると煙の匂いがしてくる。野焼きでもしてるのだろうか。実家の近くもこんな匂いがしてる時があった。

16時30分土浦発。周りには畑、田、県道、さびれたカラオケ。目を閉じてしばらくして開くと全く同じ光景が広がっている。近鉄で奈良を走るときと同じ感覚。つまらない街だ。17時21分水戸着。

17時35分水戸発。日もくれてずっと暗闇の中を走っている。景色が見えないとえらく時間が長く感じる。止まる駅は真っ暗で周りに何もない。きさらぎ駅ってこんな感じかなーってのが続いている。岩城に到着。

19時24分いわき発。変わらずきさらぎ駅。俺以外いない車両。持ってきた本を一冊読み終える。家族の絆なのか、ミステリーなのか、恋愛なのかもりもりでよくわからない話だった。

20時46分原ノ町発。もう少し。希望が見える。もうすぐ仙台に着く。ただただきさらぎ駅が続くばかりなので祈るか意識を飛ばすか妄想するしか手立てがない。けれども乗客は増えてあんまり怖くない。目の前にヤンキーが座ってやっぱり怖い。

22時08分ついに仙台に着いた。ただ椅子に座ってただけなのに歩くと膝が痛い。仙台駅の周りは京都より全然都会だ。繁華街には制服をきた女の人がたくさん立っていておじさんが値段を聞いていた。夜難波を歩くと感じる下品な臭い(ゲボとか)みたいなのはなくてそれは意外だった。

 

なんのために仙台に来たのか。なんのためにとかないのだ。仙台に行くということが目的なのだ。どこを見たい何を食べたい、正直何もない。2日目に何をすれば良いかわからなかった。とりあえず松島に行ってみる。松島は海沿いだし海鮮丼でも食べようかの思うが海沿いの店はどこもかしこも海鮮丼を出す。つまり店によって美味かったり不味かったり量が多かったり少なかったりが決まる。グーグルなんか見ればどこが評判いいかはすぐわかるんだがそれをやるのは「ずる」な気がしたので海鮮丼ガチャをやることにした。勘をしんじて適当に店に入るだけなんだけど。そしてはずれた。なんか刺身が輝いてなくて量も少なかった。めっちゃはずした。歩いてると牡蠣カレーパンってのが売ってた。美味しそう!わざわざ並んで買ってみたらカレーが強くてあんまり牡蠣感がなかった。60点。悲しい。もうこの二つでお腹いっぱいになってしまってリベンジもできなかった。午後二時、なんだか暑くて疲れ切ってしまったからカプセルホテルに戻る。六時くらいまで気絶していた。何か食べたくてとりあえず外に出たが、あろうことか俺はサイゼに入ってしまったのだ。変動の中にささやかな安定を人は常に求めているのだろう。なんてアンビバレンス!旅をしているからと一人で1300円も使ってしまった。美味かった。帰りに油そばの店を見かけて寄ってしまった。まあまあ美味かった。美味すぎもせず不味すぎましない、まあまあ美味かった(ななまがり初瀬)。

 

三日目、大雨。一日中雨。だが歩き回った。仙台城、仙台駅、東北大など歩き回ったが特に面白いものはなかった。歩いている間たくさんラジオを聞けた。昼飯に知人おすすめの牛タン屋に行こうと思ったが定休日。適当な牛タン屋に入って食べたが美味かった。ただ知人曰くおすすめの店は「レベルが違う」らしいので行けなかったのがかなりショックだ。4万歩ほど歩いて流石に疲れたが最終日のホテルをとっていなかったので快活に入る。カップルの利用が多かった。俺の隣のブースもカップルだった。音的に多分エロいことしていた。いいなー。うぜー。シャワーを浴びてカイジを読んでいたら八時前になったので街へ出た。夕飯はこれまたお勧めされた仙台っこラーメンってとこに行った。結構美味かった。最終日は始発まで飲もうと思いホテルを取らなかったのだが大雨だったのでなんだか気分が乗らなかった。ストゼロを1リットル飲んで強制的にアゲてく。普段は一人で知らない店に入るのは本当に緊張してしまうから避けているのだが、アゲたので何軒か回れた。明るい店暗い店、綺麗な店汚い店、ウェルカムな店なんとなく早よ帰れな店。色々あるがやっぱり俺はよそ者というか、ある程度店にいる人と喋ることはできるんだけどこの先交わることのない関係性だからこそお互いあまり踏み込まないみたいな。それが悲しく、心地よいようで、やはり寂しい。午前二時になればどこも閉まってしまったのでまた始発まで快活で過ごした。

5:30仙台発の電車に乗る。これまで来た道を戻るだけ。ゲボ吐きそうだったのでずっとトイレのある車両にいた。長いまばたきをすると気づいたら目の前にたくさん制服を着た子らがいて(ああ俺はみんなが働いている中で何をしているんだろう)なんて思った。逃避のためにまた目を瞑った。そんなことを何回か繰り返すと自宅近く、柏までやってきた。降りてみると懐かしい街並み。日高屋に入ってタンメンを食べた。まあまあ美味いという郷愁を求めていたのだと食べながら思う。実家の最寄りに着くと汚い街には似つかわしくない嘘みたいな青空が広がっていて俺は「嘘つけ」と呟いてしまった。実家の扉を開け、シャワーを浴び、寝転がる。実家の天井は高いな、小さい頃はしょぼい家だと思っていたが俺は将来こんな良い家には住めないんだろうなと思いながら目を閉じた。

 

文章量からも旅は目的地に向かっている時がピークとわかる。

旅、おわり